最初は型押し。引粉(桐の粉)にのりを混ぜて型に流し、乾燥させて(1)頭の生地をつくります。その上ににかわを混ぜた胡粉(貝殻を砕いてつくった顔料)を塗り重ね、(2)ガラス製の目をはめ込みます。(3)その上からさらに胡粉を厚く重ねていき、まぶたや唇などを肉づけしていく(4)置き上げの作業。その後、(5)中塗りして晒し木綿で(6)水拭きする。それから、さらえ小刀で彫っていき木賊(とくさ)でみがき上塗りをかける。
上塗りが終わると、いよいよ(7)開眼作業。集中して筆を引いていく。(8)髪のはえぎわ、眉、(書目の場合は目)を描き込む。この工程が、頭作りでいちばん緊張する時。筆先一つで人形の表情は微妙に変わってしまう。
「心に乱れがあると、頭(かしら)もだめになる」
墨はごく薄いから、始めの方は塗っても眼に見えない。それが何百回と塗り重ねられるにしたがって線が浮かびあがってくる。
唇には顔料又は染料の生臙脂(しょうえんじ)で紅をさす。
浮世絵、能面、仏像彫刻を参考に非対称、左右対称には作りません。見る人の気持ち、観る角度、方向により表情が異なります。
最後に金巾(目の細かい綿布)で磨き艶を出して仕上げる。
これらの工程を経て、えもいわれぬ「高貴なすがすがしい色気」と品位を放つお顔がようやく完成します。
すき小刀はひらがなの「し」のような形をした刃物。頭の原型作り 目、鼻、口、顎、他を胡粉で盛り上げて「すき小刀」で丁寧に顔の凹凸を作り形を整える。すき小刀を使いこなすことで、切れ長の優しい目、高貴な品位あるお顔ができあがる。
胡粉=貝殻を微粉末にした日本古来の天然素材の顔料。胡粉は安心、安全な顔料として京都銘菓の五色豆の原料にも使用されている。塗り重ねられた胡粉が放つひかえめな光沢感が、なめらかで艶々した人形の顔をもたらします。
鼬(いたち)の毛でできた極細の筆。何百本と仕入れた筆の中から、頭師自身が筆の先を加工して十数種類の筆を作る。墨は粘性の少ないものを使用し、筆の毛先を頼りに何百回と墨を塗り重ねて表情を描き入れる。歌麿の肉筆浮世絵の技法がこれと同じです。
京頭のもつ自然で艶やかな白肌。
それは、胡粉の原料である貝殻に含まれる真珠層に秘密があります。
真珠層にはただ真の白ではなく、白色の中にもほんの少し色を含んだ温かみのある色、艶が含まれていて、見る角度や光の加減によってさまざな表情をもたらします。
また胡粉には、古くなるほど、古色の美、色、艶、が年月を経てさらに美しさが醸し出されるという優れた特徴もあります。